なかなか良くならないむち打ち…恐ろしい病気が隠されている可能性も!?「脳髄液減少症」の症状・治療法まとめ
なんだか首が痛い…
首がまわらない…
交通事故によって、首に不自然な力が加わると、このような症状が出ることがあります。
これは、「むち打ち症」と呼ばれるケガの一種です。
むち打ちはレントゲンに写らないため、病院でも異常なしと診断されることがあります。
実は、医師によって意見が分かれるほど診断が難しいケガなのです。
病院で異常がないと診断されると、ほとんどの方はなんともないと思うでしょう。
しかし、むち打ち症を軽く見てはいけません。
事故直後は症状が出ず、数か月たってから体にさまざまな不調が現れることがあります。
さらには、後遺症まで残ってしまうことも…。
近年、このむち打ち症との関係性が重視されている病気をご存知でしょうか?
それが今回ご紹介する「脳脊髄液減少症」です。
この病気の背景には、重い症状や多額の治療費に苦しみ、自ら死を選ぶ人もいるという厳しい現実があるのです。
むち打ち症の85%は交通事故
まずは、むち打ち症について見ていきましょう。
むち打ち症は、正式には「外傷性頚部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)」「頚椎捻挫(けいついねんざ)」といわれます。
一般的に、交通事故による首やその周辺の打ち身や捻挫、骨折、頭部外傷などを「むち打ち症」という通称名で呼び、診断名として「外傷性頚部症候群」や「頚椎捻挫」がつけられる場合が多いようです。
むち打ち症は、その名の通り、交通事故などの衝撃で、体がムチを打ったときのようにしなることからこのように呼ばれています。
なんとその原因の85%が交通事故の際の後方からの追突です。
車に追突された衝撃で、体が急激に前へ押し動かされてると、頭は動かないようにそのままとどまろうとします。
その結果、頚椎や脊椎にダメージを受けたり、手や肩を車や道路に打ちつけた反動で首の筋肉を傷めたりしてしまうのです。
また、これらの外的な要因だけでなく、事故やケガによるストレスで血流が悪化し、首や肩に痛みやこりが発生する場合があります。
むち打ちの症状は、人によってもさまざまです。
主な症状としては、次のものが挙げられます。
・首や肩、腕の痛み
・首がまわらない
・肩こり
・頭痛
・めまい
・目のかすみや疲れ、眼精疲労
・吐き気
・握力の低下
・手や指先、足しびれやのまひ
むち打ちの症状には個人差があり、事故の状況や本人の年齢などによっても異なります。
横になっていると症状が軽くなり、立ち上がると症状がはっきり表れるという人も多いようです。
また、女性は男性よりも首が細く、筋肉量が少ないため、むち打ちを起こしやすいといわれています。
(参考:むち打ちの症状―むち打ち.com)
「脳脊髄液減少症」の症状
では、次に、むち打ち症との関係性が重視されている「脳脊髄液減少症」について説明していきます。
脳脊髄液とは脳と脊髄を覆っている液体で、脳はこの循環液の中で浮いた状態になっています。
この髄液が漏れ出し、減少すると、脳が浮力を失って、さまざまな症状が起こるようになります。
それが脳脊髄液減少症です。
主な症状は、次の通りです。
・頭痛
・吐き気
・首の硬直
・背中の上部の痛み
・倦怠感
・疲れやすさ
・めまい
・歩行困難
・目のかすみ
・視力低下
・耳鳴り
・難聴
・上肢の痛みやしびれ
・腰痛
また、この他にも、動悸・発汗異常・体温調節障害などの自律神経障害や顔面のしびれ・顔面神経麻痺などの顔面違和感、集中力・思考力の低下など、多岐にわたります。
医師の間でも認知度が低く、門前払いされる例もあるほどです。
これまで、医学界の常識では「髄液が漏れ出すことはめったにない」と考えられていたため、脳脊髄液減少症が病気として認められることはほとんどありませんでした。
しかし、2000年、当時の平塚共済病院脳神経外科部長であった篠永正道氏によって、髄液が漏れている患者が非常に多いことが発見されます。
彼は、このことを学会で発表しましたが、注目されることはありませんでした。
そこで、独自に「脳髄液減少症研究会」を立ち上げ、治療や研究を進めることになりました。
今では、患者や医師らによって、NPO法人・脳脊髄液減少症患者・家族支援協会が設立され、全国的に展開されています。
(参考:脳脊髄液減少症とは?―脳脊髄液減少症患者・家族支援協会)
裁判例から見る「むち打ち症」と「脳脊髄液減少症」の関係
2005年、交通事故でむち打ち症と診断された被害者が「脳脊髄液減少症」を主張し、加害者や保険会社と争う民事裁判が全国で相次ぎ、脳脊髄液減少症を事故の後遺障害として認める司法判断が報道されると、一気に関心が高まりました。
2017年6月には、次のような判決が下されています。
追突事故の被害者が脳脊髄液減少症になったかが争われた訴訟で、名古屋高裁(藤山雅行裁判長)が、1審・名古屋地裁判決を変更して髄液漏れとした診断の妥当性を認め、約130万円だった賠償額を約2350万円増額する判決を言い渡していたことが分かった。
1審は同種訴訟で多くの加害者側が頼ってきた医師の意見書を根拠に髄液漏れを否定したが、2審は研究が進んだ現状と治療した専門医らの見解を重視した。
2審判決は今月1日付、確定した。
髄液漏れを巡る裁判では、国の研究班メンバーで治療経験豊富な医師の肯定的な判断が認められず、否定的で治療実績が乏しい医師の意見書が採用され、患者の訴えが認められないケースがほとんど。
被害者側の柴田義朗弁護士は「裁判では研究が進展する以前に、髄液漏れを極めて限定的にしか認めない流れができてしまった。やっと医学の現状に追いついたという意味で画期的な判決だ」と評価する。
事故は2005年、神戸市内で発生。
追突された車に同乗していた当時40代の女性は事故後、頭痛などの症状に悩まされ、三つの病院で髄液漏れと診断された。
だが、追突した加害者側は「診断基準に合わない」と賠償に応じなかった。
藤山裁判長は、加害者側の医師の意見書について「1970年代の古い文献などに基づいた意見に強い説得力はない」などと指摘。
「3病院の臨床診断は十分に信頼性がある」とした。
また、3病院が撮影したMRI(磁気共鳴画像化装置)などの画像には、髄液漏れの診断基準を満たしていない部分もあったが、研究が進展中であることを踏まえて「(画像の証拠価値を)全て否定する方向で診断基準を用いるのは相当でない」と判断した。
国の研究班は2011年にMRIなどの画像による診断基準を公表。
16年度から公的医療保険が適用されている。
患者団体「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」の中井宏代表は「やっと裁判所が治療している医師の意見を理解してくれた。法廷でも医学論争に決着がつくことを祈ります」と話している。
(引用:事故被害者、追突で「髄液漏れ」認定 賠償2350万円増額 名古屋高裁判決―毎日新聞2017年6月29日大阪朝刊)
ただし、「むち打ち症」の患者が必ずしも「脳脊髄液減少症」を発症しているというわけではありません。
難治性の「むち打ち症」が「脳脊髄液減少症」であるという見方は乱暴ではないかという意見もあり、あくまでも本来の病態である脳脊髄液の減少に着目するべきだという考えも強まっています。
脳脊髄液減少症の治療法「ブラッドパッチ療法」
脳脊髄液減少症は、発症からそれほど時間のたっていない場合、安静や水分補給、点滴などの保存療法で半数以上の症状が軽快します。
しかし、保存療法の効果がない場合、「ブラッドパッチ療法」が行われます。
正式には「硬膜外自家血注入療法(こうまくがいじかけつちゅうにゅうりょうほう)」と言われます。
これは、髄液が漏れ出している穴を患者自身の血液でふさぐ治療法です。
その名の通り、血液で穴を塞ぐことからブラッドパッチと呼ばれています。
15歳以下の子どもでは、90%が1~2回の治療で改善し、小児期、学童期発症例の方が治癒率が高いというデータも発表されています。
大人の場合、2~3回行うと、約75%が改善するといわれています。
ただし、ブラッドパッチ療法が効かない患者も多いのが現状です。
そのため、疾患の定義や診断法を疑問視する専門家も多く、曖昧な診断の下でブラッドパッチ療法を行うことに対しては安全性の観点から疑問が呈されています。
ブラッドパッチ療法をする際には、慎重に診断を行い、よく検討した上で実施する必要があるでしょう。
(参考:脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の治療ブラッドパッチーメディカルノート)
自ら死を選ぶ人も…脳脊髄液減少症の厳しい現実
これまで、ブラッドパッチ療法は、病気そのものの存在が医学界で議論されていたこともあり、自費診療で行われていましたが、2016年4月から、保険適用されることになりました。
ただし、関連学会の定めた診断基準において、画像上脳脊髄液の漏れが確認された場合に限ります。
脳脊髄液の漏れが画像上で確認されなくてもブラッドパッチ療法を行う患者も多くいます。
この場合、保険が適用されないため、治療費は20~30万円となります。
11年前に車の運転中に衝突事故に遭い、脳脊髄液減少症になってしまった静岡県に住む小澤明美さん。
ブラッドパッチによって穴はふさがったが、症状は残り、現在も治療中。
「保険がきかないので、入院費などを含めブラッドパッチは30万円。いまやっている人工髄液を注入する治療は1回7万円かかります。私の場合は、主人の収入があるので治療できていますが、金銭面で治療ができていない方がたくさんいると聞いています」(小澤さん)
厚生労働省は、12年5月にブラッドパッチを、保険診療との併用を認める『先進医療』として承認したが、研究班による画像判定基準を満たした“明らかな漏れ”が見つからない限り適用されない。
「脳脊髄液減少症の一部に合併する『慢性硬膜下血腫』による死亡例が国内外から報告されています。命にかかわる病気なのにブラッドパッチが保険適用されていないことは大きな問題です」(高橋医師)
さらには重篤な症状に悩み、自ら死を選ぶ人もいるという。
小澤さんは現在、脳脊髄液減少症の患者団体の副代表を務めているが、団体を立ち上げたのは、同じ病に倒れた友の死がきっかけだった。
「時間があるときでいい。この病気があることを知ってほしい。少しでも認知度を上げてほしい」(小澤さん)
友人は、最後にそう言い残し、自ら命を絶ったという。
小澤さんのもとには電話やメールなどで脳脊髄液減少症に悩む人の声が寄せられる。
小澤さんが知り合った、脳脊髄液減少症となった妻を看病する夫が、妻の叫びを記録した日記を最後に紹介する。
《お父さん、ごめんなさい、こんな病気なって。お父さん、ごめんなさい、長いこと会社を休んでもらって。お父さん、ごめんなさい、お父さんの人生めちゃくちゃにして。お父さん、ごめんなさい、もう死にたい。お父さん、ごめんなさい、私を責めんといてね、この病気を責めてね》
小澤さんには彼女からよく「死に方を教えて」と電話があるという。
「脳脊髄液減少症」の背景には、日本の保険医療の難しさやこのような厳しい現実があるのです。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、むち打ち症と脳脊髄液減少症についてご紹介しました。
むち打ちは、みなさんも一度は聞いたことのあるものだと思います。
しかし、脳脊髄液減少症は知らなかった方がほとんどではないでしょうか。
脳脊髄液減少症は、交通事故だけでなく、スポーツなどの身近な要因で、誰しもがなり得る病気です。
しかし、診断や治療までなかなかたどり着けないということも事実です。
この病気は、早期発見・早期治療が非常に重要です。
交通事故にあった場合は、専門医にきちんと診断してもらったうえで、適切な治療を行う必要があります。
少しでもおかしいと感じたら、すぐに医師に診てもらうようにしましょう。