自動運転技術は交通事故を減らすことができない!?自動運転のデメリットや事故の責任について
現在、多くの企業が自動運転技術の開発を進めています。
「自動運転」というと、ドライバーが全く操作をしなくても走行できる車を想像する方もいらっしゃるでしょう。
自動運転技術については、専門技術者や研究者たちの間でも意見が噛み合わない場合が多く、「今世紀の実現は無理だ」という意見もあれば、「すでに実用化されている」と断言する人さえいるようです。
自動運転技術が普及すると、私たちにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
交通渋滞の解消や高齢者の移動手段など、自動運転技術がもたらす価値はさまざまです。
その中でも今回は、「自動運転技術は交通事故を減らすことができるのか」という点についてご紹介していきます。
交通事故の94%はヒューマンエラー
さまざまな企業が自動運転技術の開発を進める目的の一つに「交通事故件数の大幅な削減」があります。
この根拠として、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、次のような調査結果を公表しました。
これは、2005年7月から2007年12月までにアメリカで起きた交通事故を対象とした「The National Motor Vehicle Crash Causation Survey (NMVCCS)」のデータをもとに作成されたものです。
この表を見ると、218万9000件の交通事故のうち約94%はドライバーに原因があるとされています。
次に、この表ではドライバーの原因についての内訳が示されています。
不注意や相手の行動に対しての判断ミスなど、交通事故の約94%がドライバーの法令違反となっているのです。
日本の交通死亡事故原因1位「安全運転義務違反」
では、日本の場合はどうでしょうか?
警察庁が発表した「平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等」によると、交通死亡事故の原因割合は次の表のようになりました。
1位 安全運転義務違反
死亡事故の原因としてもっとも多いのが「安全運転義務違反」です。
これは、死亡事故のうち57.8%を占めており、その他の原因と比較すると、かなり高い割合であることが分かります。
これは、人身事故を起こした場合、基本的にこの違反に問われることになるためです。
安全運転義務については、道路交通法で次のように示されています。
(安全運転の義務)
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなけれなならない。
道路交通法第70条より
道路交通法第70条では、運転者に状況に応じた、正しい装置の操作が求められています。
特に、ポイントとなるのが、「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という部分です。
この部分が人身事故を起こしてはならないという解釈につながるとされています。
安全運転義務違反の具体的な内訳は、次の通りです。
安全運転義務違反の中でもっとも多いのが「漫然運転」です。
漫然運転とは、その名の通り、考え事をしていたり、ボーっとしていたりと、集中力や注意力が低下している状態で運転をすることです。
めったに運転しない人や免許をとってすぐの人のように運転に対して緊張感を持っている人よりも、運転に慣れている人の方が陥りがちだといわれています。
車を運転するときは、適度な緊張感を持つようにしましょう。
また、集中力が欠けていると感じたら、早めに休憩をとるようにしてください。
2位 歩行者妨害等
死亡事故原因の第2位は「歩行者妨害等」です。
歩行者妨害とは、横断歩道や自転車横断帯の直前で停止できる速度で進行していなかったり、一時停止しなかったりすることです。
信号機のない横断歩道や横断歩道が設置されていない道路での横断は歩行者が優先です。
横断歩道以外でも、常に歩行者のことを考えて安全運転をするよう心がけましょう。
3位 最高速度違反
死亡事故原因第3位は「最高速度違反」です。
最高速度違反、いわゆるスピード違反は、危険性が高い事故が発生しやすいため、無免許運転や飲酒運転とともに「交通三悪」とも呼ばれています。
速度制限は、一般道では60km、高速道路では100kmです。
標識がある場合は、その速度に従うことになります。
厳密には、制限速度を1kmでも超えてしまうと、スピード違反となってしまいますが、実際に取り締まられるのは、制限速度を10km超えてからとなることがほとんどのようです。
スピードが速いほど、車の操作が困難になったり、危険の察知や回避行動が遅れたりするため、非常に危険です。
また、スピードが速ければ速いほど、衝突した際の衝撃は大きくなります。
一方、道路交通法では、最低速度についても次のように規定されています。
(最低速度)
自動車は、道路標識等によりその最低速度が指定されている道路(第七十五条の四に規定する高速自動車国道の本線車道を除く。)においては、法令の規定により速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その最低速度に達しない速度で進行してはならない。
道路交通法第23条より
最低速度は、高速道路において、50kmと定められています。
これは、他の車両に比べて速度が遅すぎるというのも、かえって危険になってしまうためです。
法定速度を守るのは、ドライバーの基本です。
法定速度を守った上で安全運転を心掛けるようにしましょう。
死亡事故の原因となった法令違反を見てみると、「安全運転義務違反」がその過半数以上を占めていることが分かりました。
安全運転義務違反に当たる漫然運転や運転操作不適、脇見運転などは、ドライバーのヒューマンエラーとみなすことができます。
つまり、日本もアメリカとほとんど同じ状況にあると考えられるのです。
このように、交通事故の大部分が人為的なミスによるものであるのなら、自動運転技術によって交通事故を劇的に減らす、あるいは、完全になくすことさえ可能かもしれません。
(出典参考:警察庁交通局「平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等」)
自動運転車による世界初の死亡事故
現在、さまざまな企業が自動運転技術の開発を進めており、自動運転車は徐々に現実のものになろうとしています。
しかし、この自動運転技術の発展に影を落とす出来事が起こりました。
それは、2016年5月7日にアメリカフロリダ州の高速道路で起きた、テスラ・モーターズの「オートパイロット」が関与したドライバー死亡事故です。
これは、自動運転による世界初の死亡事故となりました。
テスラジャパンのサイトによると、このオートパイロットというのは、高速道路での運転をより安全でストレスフリーにするようデザインされた自動運転技術とのことです。
自動運転技術を紹介するこの動画では、実際にはドライバーが乗車しているはずですが、そのような人物は見えません。
今回の事故に関して、米国家運輸安全委員会(NTSB)の報告書によると、死亡した運転手は、長時間ハンドルに手を添えていなかったとされています。
車は運転者に対して「ハンドルに手を添えてください」という警告を7回表示していたにもかかわらず、37分間の走行中、25秒間しかハンドルを握っていませんでした。
この衝突事故を調査した米国幹線道路交通安全局は、2017年1月、テスラ車には欠陥の証拠が認められなかったと結論付けています。
自動運転車における、運転の責任について、テスラジャパンのサイトには次のようにあります。
As Autopilot technology continues to be developed, more advanced functionality will be made available to Tesla owners over time nearing full self-driving capabilities; however, until truly driverless cars are developed and approved by regulators, the driver is responsible for and must remain in control of their car at all times.
(引用:テスラジャパン)
この記述によると、自動運転技術の開発が進み、本当にドライバーがいらない車が開発され、それが認可されるまでは、自動運転技術を有効にしていても、運転の責任はドライバーが負うとされています。
自動で運転されているといっても、常に自分自身で運転していることを忘れないよう、ドライバーに警告しているのです。
(参考:NTSB Opens Docket on Tesla Crash
Sign of Relief for Self-Driving Cars as Twsla Cleared in Probe)
自動運転車の事故は日本でも起きている!?
日本でも次のような事故が起こりました。
客が運転支援機能がある試乗車を運転する際、誤った説明をして事故を起こさせたとして、千葉県警は14日、日産自動車販売店の店長(46)と店員(28)の男性2人を業務上過失致傷容疑で書類送検した。
発表によると、店員は昨年11月27日夕、同県八千代市内の市道で、男性客(38)が運転する試乗車の助手席に同乗し、一定の条件下でしか利かない自動ブレーキの機能について、「自動停止するので、ブレーキを踏むのを我慢して下さい」と誤って説明。
指示に従った客が赤信号で止まっていた前の車に追突し、2人にけがを負わせた疑いがある。試乗車の自動ブレーキ機能は雨が降って薄暗く、前方の車が黒っぽい状況では作動しないことがあるとメーカーの説明書には記載してあった。
事故発生時は同じ状況だった。店長は店員の理解不足を把握していなかったという。
男性客も自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで書類送検された。
運転支援機能がある車の事故は、2015年12月以降、この事故を含めて、6件あったそうです。
いずれもブレーキが利くと過信し、前方の車に追突したというものです。
国土交通省は、「車に備わっているのは運転を支援する技術であり、自律的に運転してくれるものではない」ということを強調しています。
「自動運転」のレベル
自動運転というと、ドライバーが何もしなくても目的地まで自動で走ってくれる車を想像する方も多いのではないでしょうか?
実は、一言で「自動運転」といっても、自動化のレベルは、日本政府や米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)によって、次のように定義されています。
【レベル0(運転自動化なし)】
ドライバーがすべての操作を行う状態です。
通常の乗用車は、これに該当します。
【レベル1(運転支援)】
ハンドル操作や加速、制動のいずれかをシステムが支援的に行う状態です。
自動ブレーキなどの安全運転支援システムがこれに該当します。
【レベル2(部分自動運転)】
ハンドル操作や加速、制動のうち、同時に複数の操作をシステムが行う状態です。
ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などがこれに該当します。
ドライバーは、常に運転状況を監視操作する必要があるため、市販されているシステムは、一定時間ハンドルから手を離しているとシステムが解除されるといった仕様となっています。
2017年時点でのテスラ社の「オートパイロット」もレベル2に該当します。
【レベル3(条件付自動運転)】
交通量が少ない、天候や視界が良いなど、限定的な環境や交通状況でのみ、システムがハンドル操作や加速、制動を行いますが、緊急時などにシステムが要請したときはドライバーが対応しなければならない状態です。
【レベル4(高度自動運転)】
高速道路上や天候などの条件を満たしたとき、ハンドル操作や加速、制動といった操作を全てシステムが行い、その条件が続く限りドライバーは、全く関与しなくても良い状態です。
基本的には、ドライバーがいなくても自動運転できますが、走行環境によっては、人間の運転が必要となります。
【レベル5(完全自動運転)】
どのような条件や環境であっても、運転をシステムに任せる状態です。
多くの企業が、レベル5相当の自動運転車の市販に向けて開発を行っています。
日本政府は、2020年までにレベル4自動運転車の実用化、2025年を目途にレベル5の完全自動運転を目指すとしています。
自動運転のデメリット~事故の責任は誰にあるのか?~
自動運転車の登場は、交通事故や渋滞の減少など、さまざまな恩恵をもたらす一方で、自動運転車のデメリットを心配する声も上がり始めています。
その中でも多くの人が気になるのが「事故発生時の責任問題」ではないでしょうか?
事故を減らすことを目的としているはずの自動運転車でも避けられない事故が起こる可能性はあります。
そのような場合、責任の所在がどこにあるのかというのは、まだはっきりと決まっていません。
自動運転のレベルが上がるにつれて、ドライバーが運転に関与する割合はどんどん減っていきます。
事故を起こしたときの責任は、ドライバーにあるのか、自動車メーカーにあるのか判断するのは、より難しくなるでしょう。
また、外部からのシステムのハッキングによるトラブルや事故にも警戒が必要です。
ハッキングした車を使い、事故を起こさせるような犯罪行為も増えるかもしれません。
現在でも自動車を使った自爆テロが世界各地で脅威となっています。
ドライバーの不要な自動運転車によって、人的損失の必要のない低コストな自動車爆弾が生まれる可能性も指摘されています。
これまで考えられていなかった事例も多く発生することになり、慎重に検討が勧められています。
まとめ
いかがでしたか?
このように、自動運転技術は、現在発展途上で、多くの課題を抱えています。
今後は、自動運転技術の発展に伴い、自動運転車のある社会の在り方についても議論が必要になってきます。
着実に進歩を続けており、自動運転車が町中を走り回る日はもう目前です。
2020年の東京オリンピックに向けて、加速する自動運転車の開発にこれからも目が離せません。